西遊記で有名な「三蔵法師」。7世紀ころ、彼は経典を求めに現在の中国から天竺(インド)まで旅をします。
現在でいう「中国」「ウズベキスタン」「キルギス」「アフガニスタン」「パキスタン」「インド」を通る旅路です。
正確ではないですが、大体下のようなルート。なお、下記の赤い線は、日本人は事実上「通行止め」。アフガニスタンの入国は難しい。
そんな三蔵法師の「影」を、空路ではなく陸路で追いかけたのがこの書籍です。
1.陸路による国境越え
私自身は、陸路による国境超えは、「シンガポール⇔マレーシア」と「オーストリア⇒ドイツ」の2か所でしか経験がありません。
特に欧州各国間の陸路での行き来は、場合によっては出入国の手続きが不要となり、あまり大変なイメージはありませんでした。しかし、陸路による出入国の厳しさは「三蔵法師ルート」ではまるで違うようでした。
例えば、陸路での国境ゲート。通常、ゲートは祝日や休日で閉まることはないそうです。しかし、トルガルト岬を経由して、中国の新疆ウイグル自治区からキルギスへ入るための国境ゲートは、中国の祝日には閉じてしまうそうです。このため、著者らはそこで5日間足止めを食らってしまうのでした。
また、国境ゲートの開閉門の時間も気を付けなくてはならないそう。キルギスと中国は隣同士にもかかわらず時差が3時間あります。そのため、仮に中国側の国境ゲートが17時で閉まる場合、キルギス側の国境ゲートには14時にはいないといけないとのことです。
とくに、中国の新疆ウイグル自治区とその他の国(キルギスやパキスタン)の出入国にはかなりの時間を取られるようでした。そもそも、国境ゲートに行くまでに何回もの検問があり、著者らもかなり嫌な目に遭ったよう。
2.鉄道の旅
本作のもうひとつの見どころは、悪名高い?インドの列車の話です。
三蔵法師がインドに行って、そして帰ってきたように、著者らもインドの列車に往復2回分乗車するのですが、それぞれの様子が凄まじい。
往路はインドのニューデリー(近くのアナンダバビハール)からガヤまでの電車。
季節は6月。朝6時から出発した列車は当初それほどではなかったものの、ぐんぐんと気温が上昇。日中の外気が40度超の中、車両内の気温はおそらく50度超え。当然、クーラーなし。途中、雨が降って気温が下がるという幸運があったものの、朝6時30分発で翌朝7時15分着の12時間超えの旅。
復路は、ガヤからパキスタン国境付近の「アムリツァル」までの列車。約30時間の旅路。寝台列車にもかかわらず指定切符でない。つまり、自分のベットがない。このため、8つ?くらいのベットを20人弱の男でスペースを分け合うという。
私もロシアで寝台列車に乗車したことはありましたが、当然そこでは自分用のベットがありました。指定ベット無しの寝台列車は想像つかないです。
本作の著者は下川裕治氏。バックパッカースタイルの旅で有名な旅行作家ですが、執筆当時はなんと60代。恐れ入ります。
著者の下川氏と本作の写真を担当した中田氏が連載する「クリックディープ旅」のこのページの1枚目と2枚目の写真を是非みてください。厳しさが伝わってきます。
3.まとめ
本作を読んで、イスラエルに旅行した時に出会った日本人旅行者との会話を思い出しました。
「陸路による国境超えっておもしろいよ」
彼は、イスラム過激派組織ISIL掃討作戦が終了しつつも、本当に安全がいえるかどうかまだまだわからないイラクに入国しようとした「ツワモノ」で、当時は正直何をいっているかわかりませんでしたが、本作を読んで、その魅力の一端には気づけたような気がしました。
なお、本作は先ほど紹介した「クリックディープ旅」をもとに書き下ろしたもの。旅の様子はこちらのからでも見ることができます。